院長ブログ|大阪のがん免疫療法(免疫細胞治療)内科|吹田市 緑地公園駅近く 北大阪メディカルクリニック

院長ブログ

No.177 その研究はなんの役に立つのか

2022年11月27日

おもしろい本を読んだ。生物学者・宮竹貴久氏の本である。この先生の本を読んだきっかけは、90歳近い母から『「死んだふりで生き延びる」っておもしろいよ』と言われたからだが、確かにおもしろい。「岩波科学ライブラリー」の一冊でこのシリーズを見てみると確かにハマりそうな本がたくさんある。読書の秋、また寝不足になりそうだ。

宮竹先生の研究は沖縄での害虫駆除に端を発するらしいが、そこからどんどん研究は広がっていく。読んでいると興味がどんどん湧き出てくるのがよくわかる。それに対して純粋に「どうして?」「どんな風に?」「どんな違い?」「何のために?」という興味を抱くことが研究者の資質なのだろうと思う。我々の多くは、仮に興味を持ってもそこに留まることなく通過していき、深く突き詰めていくだけの行動力、執着力、根気がない。ある一つのことに興味を持ち続けるというのは、それはそれで膨大なエネルギーが必要だから。

そしてこの研究、最後にはパーキンソン病の治療へと繋がっていくかもしれないという。先を見越した研究に研究費を出す、数年以内に結果を出せる研究に資金援助をするという考えでは、なかなかたどり着けないことだろう。物事には、「これをしたい」と目標を持って計画的にする行為と、結果はどうなるかわからないが興味に導かれて行う行為とあり、どちらも魅力的だ。

以前は、何かを知ろうとすると図書館に行ったり、過去の雑誌や本をめくったりと多くの手間・時間がかかった。しかし、今ではインターネットがあれば家に居ながらにして、土日祝を問わず、夜中早朝を問わず、情報を入手することができるようになった。情報の真偽を見極めることができれば、これほどありがたいツールはない。

ということで、宮竹先生の書物を手にするようになり、次に「したがるオスと嫌がるメスの生物学」という本を読んだ。ちょっと刺激的なタイトルだと思うが、読んでみると生物界の面白さ、子孫を残すための雌雄のせめぎ合い、オス同士の闘いなど、そのための工夫、身体の仕組み、タイミング、などが書かれてあり、内容は生物学として非常におもしろい。数mmの昆虫を何百匹、何千匹と飼い、その行動を観察する。更に小さい虫たちの器官を取り出す、計測する、ある物質を同定する。それを毎日毎日し続ける根気というか情熱を持てるのは、やはり自分の内側から湧き出てくる興味に突き動かされるからだろう。

本の中にも書かれているが、「おもしろいことが役に立つかどうかは、その時には誰にもわからない。けれどまず研究している本人が面白がらないことには、他人にはその面白さは伝わらない」とあるように、まず、自分がおもしろがることから研究は始まる。

このような研究をしていると「その研究をしてなんの役に立つのか?」と問われることが少なくないという。確かに昆虫が死んだふりをする時間、交尾のタイミング、回数などを観察して何のためになるのかと思う。はじめは害虫駆除に始まったこの研究の広がりの意味が即答できるかといわれると難しいだろう。ただ、純粋に興味から出発して結果としておもしろいことに繋がることもあるわけで、そこが無心になれる研究の醍醐味だと思う。

勿論、物事には限りがあるので、何でもかんでもに時間を費やし、研究費を投入するわけにはいかない。しかし予測できないことに興味を持って挑んでいく研究者たちの姿には頼もしい読後感が残った。

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